ブログ「公務員ってどうなの?」のこむぞうです。
ハラスメントの防止措置があることは、別途投稿しましたが、そもそも防止されるハラスメントにどのようなものがあるかは難しい、ということで御紹介するものです。
今回は、保護者からの理不尽な要求に対して校長が教師に謝罪させたパワー・ハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)の裁判例(甲府地判平成30年11月13日労働判例1202号95頁)を御紹介します。
そのほか、裁判事例については、厚生労働省の「あかるい職場応援団」を御覧ください。
この記事で紹介する裁判例は、厚生労働省の「あかるい職場応援団」になさそうだね。
カスタマー・ハラスメント扱いなのかな?
当事者
当事者は、こちら
- 山梨県立小学校教員X(原告)
- 教員Xが担任をする学級に所属する児童(以下「本件児童」という。)の祖父と父母
- 教員Xが勤務する小学校の校長(以下「P5校長」という。)
- 教員Xの任命権者である山梨県教育委員会(被告は、山梨県)
- 教員Xの服務を監督する甲府市教育委員会(被告は、甲府市)
事案の概要
ほかにもパワハラが争われた内容のある事案ですが、保護者からの謝罪要求にP5校長が応じた関係でいうと、次のとおりとなります。
- 平成24年8月26日犬咬み事故
教員Xが本件児童宅に立ち寄ったところ、本件児童宅の庭において、本件児童宅で飼育されている犬にかまれ、約2週間の加療を要する傷害を負った(以下「犬咬み事故」)。
こむぞう「咬」は、常用漢字ではないのでこのブログでは使わないようにしたいところですが、裁判例で使われているので使用します。
- 平成24年8月27日教員Xが本件児童の母親に損害賠償請求
教員Xが本件児童の母親に「賠償保険という保険に入っていたら、使わせていただきたい」旨を伝えた。
- 平成24年8月28日本件児童の父母が教員Xに対し謝罪と補償をすべき認識
本件児童の父母が教員X宅を訪れ、謝罪した。帰り際に教員Xの妻は、本件児童の父母に話をしたところ、本件児童の父母は、普通は補償をするものだという趣旨の話をされたと認識した。
- 平成24年8月29日教員Xの謝罪
補償をするものという認識を受けた本件児童の父らは、教員Xが勤務する小学校で話をしようと当該小学校を訪問した。そこで、本件児童の祖父は、教員Xに対し次のとおり謝罪を要求した。
- 本件児童の祖父「地域の人に教師が損害賠償を求めるとは何事か。」
- 本件児童の祖父「強い言葉を娘に言ったことを謝ってほしい。」
本件児童の祖父からの謝罪要求を受け、P5校長は、教員Xに対し、本件児童の祖父らに謝罪するよう求めた。
教員Xは、ソファから腰を下ろし、床に膝をつき、頭を下げて(頭を床に着けてはいない。)、本件児童の祖父らに謝罪した。
- 平成24年8月30日教員Xにうつ病と診断
以後、年次有給休暇2日間、傷病休暇180日間及び平成25年3月31日までの休職
ちなみにこのほかのP5校長のパワハラ疑い行為として訴えられた内容の多くは、「不法行為を構成するパワハラに該当するとはいい難い」としてパワハラとは認められなかったみたい。
私からみても、指導の範囲に収まる内容と感じました。怖いと感じそうですけどね。
判決
裁判所は、不法行為であると認め、被告である山梨県及び甲府市に対し連帯して治療費等2,959,251円及びうち2,689,251円に対する平成24年8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を命じる判決を下しました。
裁判所は、判決理由として、次のように述べ、P5校長の謝罪指示を不法行為としました。
客観的にみれば,原告は犬咬み事故の被害者であるにもかかわらず,加害者側である本件児童の父と祖父が原告に怒りを向けて謝罪を求めているのであり,原告には謝罪すべき理由がないのであるから,原告が謝罪することに納得できないことは当然であり,P5校長は,本件児童の父と祖父の理不尽な要求に対し,事実関係を冷静に判断して的確に対応することなく,その勢いに押され,専らその場を穏便に収めるために安易に行動したというほかない。そして,この行為は,原告に対し,職務上の優越性を背景とし,職務上の指導等として社会通念上許容される範囲を明らかに逸脱したものであり,原告の自尊心を傷つけ,多大な精神的苦痛を与えたものといわざるを得ない。したがって,上記のP5校長の言動は,原告に対するパワハラであり,不法行為をも構成するというべきである。
甲府地判平成30年11月13日労働判例1202号95頁
いいぞ、裁判所!もっと言って!
理不尽な要求に負けてはいけませんよね。
パワハラ対策
パワハラ防止対策については、法整備がされています。しかし、自分の身は、自分で守るほかありません。
裁判は、不法行為として損害を受けたものや職場環境整理義務違反を追求するものであり、うまく伝えきれずに「社会人としてはそれくらい耐えるべき」とされるものも恐らくあるでしょう。
パワハラへの自己防衛策として効果を発揮するのは、やはりパワハラを受けた記録の文書等の物的証拠です。
実際、私の人事担当としての実体験ですが、物的証拠があると効果的に話が進みました。
- ハラスメントの記録文書
(ハラスメントをされたときの年月日及び時間は、必須) - ハラスメントの録音
録音には、スマホで操作してもいいのですが、アプリを起動させるのに工程が多いし加害者に疑われるかもしれないので、ツイッターの意見にもあったアップルウォッチやペン型のレコーダーは、確かにお勧めです。
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証拠を確保するのは、被害者本人じゃなくてもいいよ!気づいたら、代わりに記録してあげたり、ハラスメント窓口に相談したりしてあげてね。
あなたのハラスメントを許さない心がいい職場を作ります。ほんの少しでいいので、ハラスメントと戦いましょう!その想いは、いずれあなたを救います。
そして、もしハラスメントに耐えられなくなったのであれば、休むことも重要です。病気休暇及び休職について解説する記事もありますので、こちらも御覧ください。
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