有給休暇申請の取下げをさせられたパワハラの裁判例

有給休暇申請の取下げをさせられたパワハラ 働き方のヒント(人事給与)
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 ブログ「公務員ってどうなの?」のこむぞうです。

 ハラスメントの防止措置があることは、別途投稿しましたが、そもそも防止されるハラスメントにどのようなものがあるかは難しいところです。

 特にパワー・ハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)については、この記事投稿現在まで最高裁の判例は多くありません。何がパワハラかよく分からないまま時間が過ぎるのはよくないため、この記事では、まずパワハラの裁判例として、日能研関西ほか事件(大阪高判平成24年4月6日労働判例1055号28頁)を御紹介します。

 そのほか、裁判事例については、厚生労働省の「あかるい職場応援団」を御覧ください。

まねこ
まねこ

セクハラなら最高裁の判決があるんだね。

こむぞう
こむぞう

セクハラは、法律問題と意識された歴史が長いからね。パワハラは、最近法律上定義されたばかりだから・・・。

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当事者

 当事者は、こちら

  • Y1社の教務部算数課の塾講師X(一審原告兼控訴人)
  • Y1社(塾講師Xが勤務する学習塾を経営)
  • Y1社の代表者Y2
  • Y1社の総務部長Y3
  • Y1社の教務部算数課の課長Y4(塾講師Xの勤務成績を評価する塾講師Xの上司)

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事案の概要

日能研関西ほか事件の事案の概要
  • 平成20年5月下旬
    連続休暇取得申請の承認

     塾講師Xが課長Y4に平成20年6月下旬に10日間の連続休暇となるリフレッシュ休暇の取得を申請し、承認された。

  • 平成20年6月3日
    6月6日の有給休暇の申請

     塾講師Xが平成20年6月6日を有給休暇とする申請をしたところ、同月3日に課長Y4から「今月末にはリフレッシュ休暇をとる上に、同月6日まで有休をとるのでは、非常に心証が悪いと思いますが。どうしてもとらないといけない理由があるのでしょうか。」との内容のメールを送信

  • 平成20年6月4日
    本件課長Y4発言及び本件取下げ

     課長Y4は、塾講師Xに対し、次のように言った(本件課長Y4発言)。

    • 課長Y4「6月後半にリフレッシュ休暇を申請しているのに、その上休むのか。相当に心証が悪いけれどいいの?」
    • 課長Y4「こんなに休んで仕事がまわるなら、会社にとって必要ない人間じゃないのかと、必ず上はそう言うよ。その時、僕は否定しないよ。」
    • 課長Y4「そんなに仕事が足りないなら、仕事をあげるから、6日に出社して仕事をしてくれ。」

     その後、塾講師Xは、平成20年6月6日の有給休暇の申請を取り下げた(本件取下げ)。

  • 平成20年6月6日
    本件指示1

     課長Y4は、自分の業務をXに割り当て、平成20年6月20日頃までに完成させるよう指示した(本件指示1)

  • 平成20年7月1日
    7月20日の有給休暇の申請

     塾講師Xは、Y1社の進学教室を卒業した生徒らとY1社の課員らの懇親会「同窓会」が予定されていた平成20年7月20日を有給休暇とする申請をした。

  • 平成20年7月1日及び2日
    本件指示2(本件メール1+本件メール2)

     課長Y4は、算数課の職員に対し、次のとおりメールで指示をした(本件指示2)

    • 平成20年7月1日に教材作成の担当の変更等に関する指示を行った(本件メール1)
    • 平成20年7月2日に授業研修会で使用する教材作成の担当に関する指示を行った(本件メール2)
  • 平成20年7
    月14日
    本件総務部長Y3発言

     総務部長Y3は、管理職の会議において、本件取下げについて「塾講師Xの主張は合法であるが、忙しい時期でもあるし、課長Y3の言動は理解できる。塾講師Xは、同窓会がある平成20年7月20日にも有給休暇の申請をしている。労基署の監督官が「私が先生なら同窓会に参加します。」と言っていた。」等と発言した(本件総務部長Y3発言)。

  • 平成20年7月17日
    労働組合による第1回団体交渉等

     本件総務部長Y3は、本件総務部長Y3発言について塾講師Xに対し謝罪した。また、Y1社は、課長Y4を訓戒処分とし、課長Y4に対し始末書の提出を命じたと説明した。

  • 平成20年7
    月24日
    塾講師Xうつ病診断

     塾講師Xは、平成20年7月22日から同年8月4日まで欠勤し、同年7月24日付けの傷病名をうつ病とする診断書をY1社に提出した。

  • 平成20年10月27日
    課長Y4異動

     課長Y4は、算数課長から研修課長となった。

  • 平成20年11
    月5日
    Y1社の倫理委員会の判断

     Y1社の倫理委員会は、本件取下げの問題に関し、次の判断をした。

    • 本件課長Y4発言には、パワハラに該当する事実があったこと。
    • 本件指示1は、パワハラには該当しないが、課長の業務執行としては極めて不適当であること。
  • 平成20年12
    月8日
    本件代表者Y2発言

     Y1社の代表者Y2は、Y1社の全従業員が集まる集会において、「あんなもの(課長Y4のXに対する行為)は、私はパワハラだとは思わない。」「今後、有給休暇はよく考えてから取るように。」等と発言した(本件代表者Y2発言)。

判決

 裁判所は、不法行為であると認め、次のとおり判決を下しました。

  • Y1社に対し慰謝料120万円
  • Y2に対し慰謝料20万円
  • Y3に対し慰謝料20万円
  • Y4に対し慰謝料60万円

 それぞれの判決理由等は、次のとおりです。

本件課長Y4発言は、違法行為と認められた。

 裁判所は、次のように有給休暇の成立要件を解釈し、Y1社が時季変更権を行使した事実は認められないので、課長Y4の承認を経ることなく、本件有給休暇申請によって、法律上当然に有給休暇が成立することから、本件課長Y4発言は、労働基準法(昭和22年法律第49号)で定められた使用者の有給休暇を与える義務に反し、同法で労働者に認められた有給休暇の権利を侵害する違法行為に該当するものと認められるとされました。

労働基準法39条1項,2項の要件が充足された場合,労働者は法律上当然に上記各条項所定日数の有給休暇をとる権利を取得し,使用者はこれを与える義務(労働者がその権利として有する有給休暇を享受することを妨げてはならないとの不作為を基本的内容とする義務)を負う。そして,労働者が,有給休暇権を具体的に行使するにあたっては,その有する休暇日数の範囲内で,具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは,客観的に同条5項ただし書所定の事由が存在し,かつ,これを理由として使用者が時季変更権の行使をしない限り,上記指定によって年次有給休暇が成立し,当該労働日における就労義務は消滅すると解するのが相当である。すなわち,時季指定の効果は,使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するものであるから,年次有給休暇の成立要件として,労働者による「休暇の請求」やこれに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はない(・・・)。

神戸地裁平成23年10月6日判決(控訴審の大阪高判平成24年4月6日労働判例1055号28頁でも引用)

本件指示1は、塾講師Xの人格権の侵害

 課長Y4は、塾講師Xが本件有休申請を取り下げて上記同日に出勤したならば、塾講師Xにおいてするべき業務があることを認識しながら、何ら合理的な理由がないのに、自己の担当業務を塾講師Xに割り当てたのであるから、本件指示1は、塾講師Xが本件有給休暇申請をしたことに対する嫌がらせであり、塾講師Xの人格権を侵害したものと裁判所は認めました。

本件指示2は、塾講師Xの人格権の侵害とは認められなかった。

 裁判所は、次のとおり本件指示2が塾講師Xに対する嫌がらせや報復に該当すると認めるに足りる証拠はなく、塾講師Xの人格権を侵害する行為であると認めることはできないとしました。

  • 本件メール1によって、教材の作成に関する塾講師Xの担当が増えたと認めるに足りる証拠はなく、本件メール1によって業務が増えたことを前提とする塾講師Xの主張を採用することはできない。
  • 本件メール2の指示内容は、従来、課長Y4が担当することとなっていた研修会用教材の作成を塾講師Xに指示するもので、塾講師Xの担当業務が増加した事実は認められるものの、当該指示は、算数課全員に対してなされたもので、労働組合員ではない者の担当も増えていることに照らせば、本件メール2が、労働組合員又は塾講師Xに対する報復又は嫌がらせであると認めることはできない。

本件総務部長Y3発言は、塾講師Xの名誉感情の侵害

 裁判所は、本件総務部長Y3発言が次の点で塾講師Xの名誉感情を侵害するものと認めました。

  • 本件課長Y4発言が違法であることや塾講師Xの同窓会の日の有給休暇申請についても、Y1社が当該有給休暇申請を拒絶できる合理的な理由は何ら存在しないこと(実際、塾講師Xの当該有給休暇申請に対して、Y1社は時季変更権を行使していない。)を認識しながら、敢えて本件課長Y4発言を擁護して、本件有給休暇申請について塾講師Xにも問題があるかのような発言をしたこと。
  • 塾講師Xの同窓会の日の有給休暇申請についても、労働基準監督署の監督官の発言を引用して本件有給休暇申請が不適切であるかのような発言をしたこと。

本件代表者Y2発言は、塾講師Xの名誉感情の侵害

 裁判所は、本件代表者Y2発言が本件有給休暇申請を不適切であることを当然の前提とするものとしているとし、次の理由により本件代表者Y2発言は塾講師Xの名誉感情を侵害する意図の下において行われたものと認めました。

Y1社の職場環境整備義務違反

 裁判所は、本件課長Y4発言で裁判所が述べたとおり本件課長Y4発言は極めて違法性の高い不法行為であるにもかかわらず、次の事例等により本件取下げに関するY1社の対応は不十分であったとし、倫理委員会の開催が遅延したことについてY1社の職場環境整備義務違反を認めました。

  • 教務部長(課長Y4の上司)及び総務部長Y3は、本件課長Y4発言を擁護する発言を行ったこと。
  • 総務部長Y3が本件事情聴取の内容を説明できなかったこと。
  • 教務部長が本件課長Y4発言の確認を怠ったこと。

職場環境整備義務違反が認められなかった点

 塾講師Xは次の点についても職場環境整備義務違反を主張していましたが、裁判所は、懲戒処分の検討、始末書の開示、課長Y4への謝罪要求等についてはY1社に一定の裁量権があると解されるため、裁量権を逸脱するものであるとは直ちにいえないとし、職場環境整備義務違反が認められませんでした。

  • 平成20年7月5日付けで課長Y4が塾講師Xに本件取下げをさせたことの反省及び塾講師Xへの謝罪が記された始末書を塾講師XがY1社に開示を求めても開示しなかったこと。
  • 課長Y4に謝罪させていないこと。
  • 課長Y4の異動が本件取下げの問題発生から4か月以上経過した後であったこと。

パワハラ対策

 パワハラ防止対策については、法整備がされています。しかし、自分の身は、自分で守るほかありません。

 裁判は、不法行為として損害を受けたものや職場環境整理義務違反を追求するものであり、うまく伝えきれずに「社会人としてはそれくらい耐えるべき」とされるものも恐らくあるでしょう。

 パワハラへの自己防衛策として効果を発揮するのは、やはりパワハラを受けた記録の文書等の物的証拠です。

 実際、私の人事担当としての実体験ですが、物的証拠があると効果的に話が進みました。

  • ハラスメントの記録文書(ハラスメントをされたときの年月日及び時間は、必須)
  • ハラスメントの録音

 録音には、スマホで操作してもいいのですが、アプリを起動させるのに工程が多いし加害者に疑われるかもしれないので、ツイッターの意見にもあったアップルウォッチやペン型のレコーダーは、確かにお勧めです。

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まねこ
まねこ

証拠を確保するのは、被害者本人じゃなくてもいいよ!気づいたら、代わりに記録してあげたり、ハラスメント窓口に相談したりしてあげてね。

こむぞう
こむぞう

あなたのハラスメントを許さない心がいい職場を作ります。ほんの少しでいいので、ハラスメントと戦いましょう!その想いは、いずれあなたを救います。

 そして、もしハラスメントに耐えられなくなったのであれば、休むことも重要です。病気休暇及び休職について解説する記事もありますので、こちらも御覧ください。

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